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東京地方裁判所 平成4年(ヲ)2205号 決定

当事者 別紙当事者目録記載のとおり

主文

1  相手方らは、買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)に対する占有を解いて、これを執行官に引き渡せ。

2  執行官は、買受人が代金を納付するまでの間、本件建物を保管しなければならない。

3  執行官は、本件建物を執行官が保管していることを公示するため適当な方法をとらなければならない。

理由

1申立人の本件申立の趣旨及び理由は、別紙「売却のための保全処分申立書」記載のとおりである。

2よって、判断するに、一件記録によれば、次の事実が疎明される。

(1)  申立人は、本件基本事件の債務者兼所有者である相手方株式会社ニッシン(以下「相手方ニッシン」という。」)に対し、平成二年一月三〇日、金三億五〇〇〇万円を貸し付け、その際これを担保するため、相手方ニッシンの所有する本件建物及びその敷地(以下「本件土地」という。)に抵当権(共同担保)の設定登記を受けた。

(2)  申立人は、平成三年四月一二日、当庁に対し、本件土地建物につき、競売の申立てをし、同月一五日、当裁判所は、競売開始決定をした。

(3)  執行官が、平成三年五月一三日、現況調査に赴いた際、本件建物は、相手方ニッシンの元取締役であり、本件建物の元共有者であった岡崎和彦が家族とともに住居として使用していた。

(4)  当裁判所は、平成三年七月一八日、本件土地建物につき、最低売却価額を三億四五三四万円(一括競売)と定め、同年九月二六日、売却実施命令(期間入札、開札期日同年一二月一一日)を発したが、適法な入札がなかったので、平成四年二月一四日、再度入札期間を同年四月一六日から同月二三日まで(開札期日同月三〇日)として期間入札の方法による売却実施命令を発した。

(5)  本件建物には、前記第一回目の期間入札の開札期日の前日である平成三年一二月一〇日受付で、株式会社インターナショナルエクスプロイト(以下「申立外会社」という。)のために賃借権設定仮登記がなされた。また、同日付で、同会社のために、本件土地の一部にも賃借権仮登記がなされるとともに、同日付で、同会社は、本件土地についての、根抵当権設定仮登記の移転仮登記を経由した。

(6)  申立人の社員が、平成四年二月二〇日、本件土地建物の見分に行ったところ、本件建物の周囲全体に足場が組まれ、内外装工事がされていた。同社員は、現場の作業員に、工事内容等につき尋ねたが、詳しくは語らず、誰かが入居するらしいとのことであった。また、本件建物に居住していた岡崎和彦は、既に居住していなかった。

(7)  そこで、申立人は、平成四年二月二七日、当庁に、相手方ニッシンを相手方として、保全処分の申立をした(当庁平成四年(ヲ)第二〇九一号)。当庁は、同事件につき、同月二八日、工事禁止、占有移転禁止の保全処分を発した。同保全処分は、平成四年三月二日相手方ニッシンに送達された。

(8)  同月五日、申立人の社員が本件建物の見分に赴いたところ、内外装工事は完成していた。同月一〇日、再び赴いたところ、宅配便の配達人が相手方B(以下「相手方B」という。)宛の荷物を届けに来ていた。また、郵便ポストに新聞が多数詰込まれていた。

(9)  そこで、申立人は、平成四年三月一二日、当庁に、相手方ニッシンを相手方として、執行官保管等の保全処分の申立をした(当庁平成四年(ヲ)第二一一八号)。当庁は、同事件につき、同月一三日、これを認め、保全処分を発した。

(10)  申立人は、当庁執行官に対し、同決定の執行を申立て、平成四年三月一七日、執行官は執行に赴いたが、本件建物の占有関係が明確でないことから、申立人の申出により、一旦執行は中止された。

(11)  その後、同月二四日、二五日に亙り、執行官は、執行のため本件建物に臨場したが、相手方A(以下「相手方A」という。)及び相手方Bが、家具類、衣類、日用品、テレビ、ステレオなどを本件建物内に運び込み、一応共同して占有しているとの外観を作出していたため、執行官は、同人らの占有ありと判断して、執行不能とした。

(12)  本件建物内には、相手方A所有の物と思われる背広等の衣類が二〇ないし三〇着あったが、その多くは黄色の背広など派手なもので一般の勤め人が日常着用するようなものではなかった。本件建物内に相手方Aの名刺があったが、それには「株式会社INTEX インターナショナルエクスプロイト 会長A」と記載されていた。本件建物内には、布団が何枚か高く積み上げられており、また、冷蔵庫の中には何も入っていなかった。また、相手方B女は、相手方Aと親密な関係にある者であることが窺われた。

(13)  申立人は、平成四年三月二六日、当庁に、相手方A及び相手方Bを相手方として、建物退去の保全処分の申立をした(当庁平成四年(ヲ)第二一二三号)。当庁は、同日、相手方A及び相手方Bに対し、建物退去の保全処分を発令した。同決定の送達は特別送達の方法により行われ、相手方Aに対しては、平成四年三月三一日送達されたが、同人はこれに対して執行抗告をせず、相手方Bに対しては、配達時に同女が不在であったため、不在配達通知書が差し置かれ、郵便局において留置されていたが、同女が受け取りに行かなかったため、留置期間経過により返戻された。

(14)  申立人の社員が確認したところ、相手方A及び同Bは、平成四年四月二〇日に至るも本件建物から退去していない。

(15)  平成四年四月三〇日、本件開札期日が開かれたが、本件建物については、入札がなかった。

3以上の事実、すなわち、相手方Aが会長である申立外会社は、本件第一回目の売却実施命令の開札期日の前日である平成三年一二月一〇日受付で、本件建物に、賃借権設定仮登記をしたこと、相手方ニッシンは、二回目の売却実施命令が発せられた後である平成四年二月二八日、当裁判所が発した保全処分を無視して、本件建物の内外装工事を進行、完成させ、更に、相手方Aらを本件建物に入居させたこと、相手方Aらは、前記建物退去の保全処分送達後二回目の期間入札の入札期間に至るも本件建物を占有していること、などに鑑みれば、相手方ニッシンは、本件差押後に、執行妨害を目的として、相手方Aらを本件建物に入居させたものであり、相手方A及び同Bは、執行妨害目的で本件建物に入居し、これを占有しているものと認められる。このような事実関係の下では、相手方A及び同Bは、相手方ニッシンの占有補助者とみるべきであるから、相手方A及び同Bは、売却のための保全処分の相手方となるものである(なお、相手方Bについては、「本件建物から退去せよ。」との民執法五五条一項の保全処分が送達なされていないので、同法五五条二項の執行官保管の保全処分をなしうるかが問題となるが、前記認定のように相手方Bは相手方Aと親密な関係にあり、また裁判所から同女宛に書類が来ていることは不在配達通知書によって知っていたと思われること、同女らは互いに執行妨害目的で本件建物を占有しているものであり、相手方Aに保全処分が送達されたことにより、同人から相手方Bに対しても保全処分が発令されていることは当然聞き及んでいるはずであり、しかるに本件建物から退去していないことからして、同女に対して、再度送達をして、送達が完了したとしても、同女が本件建物から退去することは期待しえないものと認められる。従って、相手方Bに対しては、民執法五五条一項の保全処分をすることなく、同条二項の保全処分を発令することができるものである。)。

ところで、本件建物を執行妨害を目的とする相手方Aらが占有することにより(相手方Aは、執行妨害を目的とする行為を専門とする者であると推認される。)、買受人の出現が困難になることは明らかであり、そのために、本件土地建物の価値は著しく減少することになる。以上によれば、相手方らの行為は、本件土地建物の価値を著しく減少させるものであるから、当裁判所は、申立人に相手方らそれぞれにつき金一〇万円の担保をたてさせたうえ、民事執行法五五条二項(同法一八八条)に基づき、主文のとおり決定する。

(裁判官松丸伸一郎)

別紙当事者目録

申立人 オリックス・インテリア株式会社

代表者代表取締役 松井静雄

上記申立人代理人弁護士 今井和男

同 古賀政治

同 横山雅文

相手方 株式会社ニッシン

代表取締役 原嶋弘

相手方 A

相手方 B

別紙物件目録

所在 東京都大田区田園調布三丁目四二番地二〇

家屋番号 四二番二〇

種類 居宅

構造 木造瓦葺二階建

床面積 一階 59.89平方メートル

二階 56.34平方メートル

(現況) 地下室あり

床面積  約12.39平方メートル

別紙売却のための保全処分申立書

申立ての趣旨

相手方らは買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録記載の建物(以下、「本件建物」という)に対する占有を解いて、これを執行官に引き渡せ。

執行官は、買受人が代金を納付するまでの間、本件建物を保管しなければならない。

執行官は本件建物を執行官が保管していることを公示しなければならない。

申立の理由

1 申立人は、相手方株式会社ニッシン(以下、「相手方ニッシン」という。)に対し、平成二年一月三〇日、金三億五〇〇〇万円を貸付け、その際これを担保するため、相手方ニッシンの所有する本件建物及びその敷地(以下「本件土地」という。)に抵当権(共同担保)の設定登記をした。

2 申立人は平成三年四月一二日、御庁に対し、本件土地建物につき競売の申立をし、同月一五日御庁より競売開始決定を得た。

3 執行官が平成三年五月一三日、現況調査に赴いた際、本件建物は相手方ニッシンの元取締役であり、本件建物の元共有者であった岡崎和彦が家族とともに住居として使用していた。

4 御庁は、平成三年七月一八日本件土地建物につき、最低売却価格を三億四五三四万円(一括競売)と定め、同年九月二六日、売却実施命令(期間入札、開札期日同年一二月一一日)を発したが、適法な入札がなかったので、平成四年二月一四日、再度入札期間を同年四月一六日から同月二三日までとして期間入札の方法による売却実施命令を発した。

5 本件建物には、前記第一回目の期間入札の開札期日の前日である平成三年一二月一〇日受付で、株式会社インターナショナルエクスプロストのために賃借権設定仮登記がなされた。また、同日付で同会社のために、本件土地にも賃借権仮登記がなされるとともに、同日付で同会社は本件土地についての根抵当権設定仮登記の移転仮登記をした。

6 申立人の社員が、平成四年二月二〇日、本件土地建物の見分にいったところ、本件建物の周囲全体に足場が組まれ、内外装工事がなされていた。

同社員は、現場の作業員に工事内容等につき尋ねたが、詳しくは語らず、誰かが入居するらしいとのことであった。

また、従前本件建物に居住していた岡崎和彦は、現在居住していない。

7 そこで、申立人は平成四年二月二七日、御庁に対し、相手方ニッシンに対する「工事中止、内装、外装、改築など一切の工事の禁止、占有移転禁止」の保全処分の申立をした(御庁平成四年(ヲ)第二〇九一号)。

8 御庁は、同事件につき、同月二八日金五〇万円の担保で「一 相手方は買受人が代金を納付するまでの間、本件建物に対して行っているすべての工事を中止せよ。二 相手方は、本件建物について、買受人が代金納付するまでの間、内装、外装、改築などの一切の工事をしてはならない。三 相手方は、本件建物について、買受人が代金を納付するまでの間、その占有を他人に移転し、または占有名義を変更してはならない。」との保全処分を発した。同保全処分は、平成四年三月二日相手方ニッシンに送達された。

9 同月五日、申立人の社員が本件建物に見分に赴いたところ、内外装工事は完成していた。同月一〇日、再び赴いたところ、宅配便の配達人がB宛の荷物を届けに来ていた。また、郵便ポストに新聞が多数詰め込まれていた。

10 以上の事実、すなわち、本件競売手続は二回目の売却実施命令が発せられた段階にあったこと、本件土地建物には平成三年一二月一〇日受付で賃借権仮登記がなされていること、相手方ニッシンは平成四年二月二八日当裁判所が発した保全処分を無視して、本件建物の内外装工事を進行させ、これを完成させたこと、Bなる者が本件建物に入居しようとしていること、などに鑑みれば、本件建物をBなど第三者に賃貸する等して占有を移転しようとしているものと考えられた。

本件建物を第三者が占有するに至った場合には、買受人の出現が困難になることは明らかであり、そのために本件土地建物の価値は著しく減少することになるので、更に申立人は相手方ニッシンに対し平成四年三月一二日に民事執行法第五五条第二項に基づき、執行官保管等の保全処分を申立てた。

11 御庁は平成四年三月一三日、金五〇万円の担保で、

「相手方は、買受人が代金を納付するまでの間、別紙物件目録記載の建物(以下、「本件建物」という。)に対する占有を解いて、これを執行官に引き渡せ。

執行官は、買受人が代金を納付するまでの間、本件建物を保管しなければならない。執行官は本件建物を執行官が保管していることを公示しなければならない。」

との保全処分を発した。

12 申立人は、御庁に対し、同決定の執行を申立て、平成四年三月一七日午後一二時五〇分に着手したところ、本件建物の占有関係が明確でないため、一度中止した。

13 その後、同月二四日、二五日にわたり、執行を行ったところ、居住するなどして常時占有している状態ではないが、家具類や衣類、日用品、テレビやステレオなどが運びこまれていて、相手方A及び相手方Bが占有しているという外観を作出していたため、執行間は両名の共同占有ありと判断して執行不能とした。(別紙①、②)

14 相手方Aの所有にかかるとみられる背広等の衣類が二〇〜三〇着程吊るしてあったがその多くは派手なもので一般の勤め人が日常着るような感じのものではなかった。

相手方Aの名刺があったがこれには次のように書かれていた。

「株式会社INTEX

インターナショナルエクスプロイト

会長 A

港区六本木○丁目○―○○

TEL ○○○○―○○○○

FAX ○○○○―○○○○」

15 即ち、本件土地建物に賃借権仮登記、根抵当権移転仮登記の名義人であるインターナショナルエクスプロイトの会長職を語っている訳であり、占有妨害、執行妨害を企んだ首謀者であると考えざるを得ない。

この名刺に書かれた住所地と株式会社インターナショナルエクスプロイトの本店所在地は完全に一致している(別紙②)。

16 相手方Bは相手方Aと共謀のうえ、郵便物を従来の住所地の「港区麻布十番三―五―七麻布カジタ四〇三号」から本件建物所在地に転送するなどして、占有の主体は同人であるかのように装っているが、以上のような事実関係からすれば、相手方Aが背後にいて巧妙に占有妨害、執行妨害を企んでいると考えられるものである。

17 このような前述の保全処分を全く嘲笑している相手方らの大胆かつ悪質、巧妙な占有妨害、執行妨害を将来の引渡命令にだけ解決を委ねるとするのは余りに非現実的であり、もしこのような占有妨害、執行妨害の状態を看過しておくならば、更なる妨害行為がなされることは経験則上明らかであり、将来買受人の出現が困難になるばかりか本件土地建物の価値が著しく減少することは確実であるので、緊急性、必要性とも一刻の猶予もないので、平成四年三月二六日に相手方A及び相手方Bの占有排除のため更なる保全処分を御庁に申し立てたところ、同日、金一〇万円の担保で「相手方らは、本決定送達後五日以内に別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)から退去せよ。」との保全処分を得た。

18 本決定は相手方Aには平成四年三月三一日に送達されたが相手方Bには送達にならない。然しながら以上のような事実関係からすれば相手方Aを通じて、相手方Bに事情が伝わっていることは疑うべくもない。ところが、現地は全く退去された様子はない。よって、相手方ニッシン及びこれの占有補助者である相手方A、同Bに対し頭書のとおりの申立てに及んだ次第である。

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